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作者 瑠璃蝶々 原作 名探偵コナン
ジャンル 恋愛,イベント,未来
カップリング コナン-哀(高校生)
掲載 2007/08/23(Thu.) 更新 -
カウント・ダウン
















移ろいゆく季節と 過ぎゆく時間のなかで

どれだけの人と出会い どれだけの人と別れただろう






変わらないものより 変わっていったもののほうがずっと多くて






ただ


あの頃から変わらないのは お前の寂しげな微笑みと 繋いだ手のぬくもりだけ












     カウント・ダウン













12月31日、大晦日。

阿笠邸のキッチンでは、哀が新年を迎える準備をしていた。




コナンと哀が、帝丹高校に入学して、初めての正月がやってくる。








「よぉ」

「あら、江戸川君。どうしたの?」

「今日の晩メシ、何?」




中学入学と同時に、コナンは毛利家を出た。
表向きには、有希子に頼まれた、という理由で、工藤邸で一人暮らしを始めたが
事ある事に隣の阿笠邸に入り浸っていて、食事も殆ど博士と、そして哀と一緒に摂っている。




「後でおソバもあるし…軽いものでいいわよね?」

「なぁ。晩メシの時にソバも食って、夜、出かけねーか?」

「…初詣なら、明日のお昼に歩美ちゃん達と約束してるじゃない。
 先に済ませたら、怒られるわよ? 皆が揃うのは久しぶりだ、って、楽しみにしてたから」

「ああ、解ってる。けど、それとは別なんだよ」

「じゃあ、何?」

「行きてー所、あるんだけどさ。つきあってくれよ」

「……まあ、いいけど……どこなの?」

「ま、後のお楽しみ、ってとこかな。……サンキュ」


軽い口調とは裏腹に、コナンは真剣な目をしている。
それが気になったものの、哀もそれ以上追求はしなかった。






少し早めの年越しソバを食べた後、博士に見送られて二人は出かけた。




「ねえ、何処に行くの?」


そう聞いても、コナンは「着けばわかるさ」の一点張り。










「―――さ、着いたぜ」

「……ここって……」

「ほら、入るぞ」

「え、ええ……」


その場所に立った哀は、驚きと戸惑いを隠せない。








ここは、工藤新一の、終焉の場所。


そして、江戸川コナンの、始まりの場所。








米花町・トロピカルランド。










「めいっぱい遊んでから、新年のカウントダウン、オメーと一緒にやろうと思ってさ」


ニカッと笑いながらそう言うと、コナンは哀の手を握って駆けだした。


















《―――ご来場の皆様へ、ご案内致します。
 もうすぐ、新年に向けてのカウントダウンが始まります。
 0時を迎えた瞬間、打ち上げ花火を披露致します。皆様どうぞ観覧車の方向にご注目下さいませ》


新年オールナイト営業の園内では、年越しのイベントを告げるアナウンスが流れ始めた。
楽しげに遊んでいた人々が、時計と観覧車がよく見える場所に、次々と移動を始める。






その時






「来いよ」


コナンが哀の手を引き、すっと人混みから逆方向に離れた。




「ちょ、ちょっと、どこへ行くの?」

「いいから」


それだけ言うと、コナンは園内の、ある場所を目指した。
哀も、だまってそれに従う。


やがて、人気のない建物の角で、コナンは足を止めた。




「……ここに、来たかったんだ」

「………! もしかして………」

「ああ…。オレが、薬を飲まされた場所さ。
 あの辺りでウォッカが取引をしていて……オレはここ……。
 で、後ろ……こっちから来たジンに殴られて……。
 アイツらも、もう居ねーし……あれから、もう10年がくるのにな。
 おかしなもんだよな……。昨日のことのように、思いだせるぜ……」

「………」






     この場所で

     彼は 薬を飲まされた




     私が作った………あの毒薬を………








「……なぁ、灰原。……あのさ」


コナンが言いかけた途端。


『――― 1分前! 59! 58!……』


人混みのほうから、カウントダウンの声が聞こえはじめた。


「……向こうに行きたいか?」

「……あなたは?」

「いや、ここがいい。……オメーは? オレとしては、いて欲しいんだけど」

「じゃあ、私もここにいるわ」






     あなたは知らない

     私が居たい場所は あなたの側だけなのだということを



     それが 本当は望んではならない願いだと解っていても――――――








「よし! やろーぜ、オレ達も」

「…二人だけで?」

「だからだよ。……オレ達だけの、カウントダウンだからな。
 ……ほら! 10!……9!」

「……8……7……」


コナンがこういう言い方をする時は、大概、何か真意があることを哀は知っている。
何なのだろう、と思いつつも、声を合わせて、カウントダウンを続けた。


向かい合い、両手を握りあい、互いを見つめながら。






『……2!……1!』

「「……ゼロ!」」








ヒュウウゥッ……!






ドォ………ン












冬の夜空に、大輪の花が咲いた。

わぁっ、という歓声があがり、ファンファーレと共に、おめでとうの声があちこちから聞こえてくる。






「……あけましておめでとう、灰原」

「あけましておめでとう……江戸川君」

「………なぁ、灰原」

「……何……?」

「さっき、言いかけた事なんだけどさ。……続き、聞いてくれるか?」

「ええ……聞かせて」






     聞かせて欲しい

     あなたの思っている事を 全て


     それが………どんなことであっても………












「オレ達、今日、ここで………本当の意味で、生まれ変わらねーか?」












「……え……?」


コナンの口から出てきた、意外な言葉に、哀は目を丸くした。






この場所に連れてこられた時に、哀は覚悟を決めていた。

10年近く続いた、穏やかな、それでいて満たされた日々。
それが、今日限りで終わるのかもしれない、と。




罪悪感は、決して消えることはなかった。これからもそうだろう、と哀は思う。

それでも、周囲の暖かな思いやりと、静かに過ぎてゆく時間と
――――――愛しいひとの側で過ごす、ごく普通の人生は、とても心地よくて。

失うことを怖れつつも、いつも、心のどこかで、終焉が来ることを覚悟していた。


自分は――――――彼に対して、それだけのことをしたのだから、と。






だが、そんな覚悟に反して、慈しむような視線を哀に向け、コナンは続ける。




「―――もう、10年だ」

「……」

「あれから、丁度10年が来る。10年経って、やっと……始められる、気がするんだ」

「……何が、なの?」

「……あのさ。まず、これだけは言っておきてーんだけど。
 オメーは、ずっと信じてなかったのかも知れねーけど……。
 本心から。オレはあの時―――コナンとして生きていく、って決心したこと、後悔してねーんだ」

「――――――嘘」

「嘘じゃねーよ」

「だって………だって、薬さえ完成していれば、あなたは元に戻れたのよ?
 あの時……データさえ、手に入れられたなら……あなたは……」

「あの状況だ。あれ以上データに固執していたら、まず助からなかったさ。
 データ抱えたまま死んじまっても、意味ねーし」

「でも」

「ストップ。―――――― 話は、まだ終わっちゃいねーんだぜ? 最後まで聞けよ」


哀は口を閉ざし、コナンをじっと見つめた。


「今年、オレは……あの時の、工藤新一の年齢を追い越す。
 この10年……オレは江戸川コナンの、オメーは灰原哀の10年を、過ごしてきただろ?
 同時に、オレの中には、同じだけの年齢を過ごした工藤新一がいて、
 オメーの中には、同じだけの年齢を過ごした宮野志保がいる。
 どっちがどう、とか言うんじゃなくて…それは、オレ達にとって、紛れもない事実なんだよな」


歓声の中、次々に打ち上げられる花火を見ながら、コナンは続ける。


「けど、これからは……新一として経験したことのない歳になる。まっさらな人生が始まる。
 今年から、本当の意味で……『江戸川コナン』として生きていくんだって……そんな気がするんだ。
 ……だから……灰原?」


再び哀に目を向けたコナンは、穏やかさの中にも、真剣な表情を漂わせていた。


「オメーも、もう、『灰原哀』で在れよ。
 オメーだって、今年、薬を飲んだ時の自分を追い越すだろ?
 だから……お前も、生まれ変われよ。
 宮野志保だったときの、辛い記憶も……罪の意識も……ここで、生まれ変わらせようぜ。
 灰原哀としての、まっさらな人生、始めろよ。……オレと、一緒に」

「……江戸川、君……」

「オメー、さっきから、顔こわばってたけど……。
 オレが、この10年の恨みつらみでも言うって、思ってたのか?」

「……そ……それは……」

「ったく……んな事だろーと思ったぜ……。
 あのな? 出会った時は、確かにいろいろ言っちまったけど。
 本当の事情を知ってから後、オレ、オメーの事を恨みがましく思ったことなんて、一度もねーんだぜ?
 勿論、解毒剤を諦めた、あの時もだ。それは……それだけは、信じて欲しいんだよ」

「……信じたい、わ……信じたいのよ……。
 でも……たとえ、あなたが私を赦してくれても……私が犯した罪は、それだけじゃないんだもの。
 ……たくさんの人々の人生を、狂わせて……奪って……」

「………やっぱ、そんな風に思ってたんだな。
 本当はさ。10年もかけずに、さっさとオメーのそーゆー考え、取っ払ってやりたかったんだけど…。
 オレがそうしろって言ったところで、ハイそうですか、って聞くヤツじゃねーだろ?オメーは。
 でもさ……もう、いいんじゃねーのか?
 オメーは、償いたい、償い足りないって、そう思ってるのかもしれねーけど…
 この10年もの間、罪の意識を抱き続けたんだろ? ………もう、十分だよ。
 ……それに……あの薬で、他人の人生を奪ってしまった、って思いから抜け出せないのなら……
 尚更オメーは、その人達のぶんも、前を向いて歩かなきゃならねーんじゃねーのか?」

「………」

「後ろを向いて、立ち止まったままでいるのだけが、償いなんかじゃねーよ。
 前を向いて、未来を求めて歩いていくのだって……立派な償いなんじゃねーのか?
 ……だったら、その為にも……今日から、本当の意味での、灰原哀としての人生を始めろよ。
 前を向いて、歩いていけよ。………それに………」


コナンが、頬を少し赤くして、何かを言いたげな顔をして


「?」


不審に思って小首をかしげた哀を、いきなり抱き寄せた。




「!!」


驚きを隠せない哀の耳元で、一言一言噛み締めるように、言葉を、想いを紡ぐ。






「……それに……。オメー、もういいかげん、過去よりも……オレのこと、見てくれよ。
 オレとの、未来……見てくれよ……。
 オレはさ……この先、ずっと……オメーと一緒に、未来へ向かって、歩いていきてーんだよ……」










   『―――愛してる、から………』












耳元で囁かれた真摯な言葉に


言いようのない想いが、幸福感が、怒濤のように押し寄せてくるのを、哀は感じていた。






震える手が、戸惑いながらも、コナンのコートをギュッと掴む。






「……いい、の……?」

「ん?」

「……あなたは、私を……赦して、くれるの……?」

「赦すとか、赦さねーとか……そんな風に思っちゃいねーよ」

「……私……幸せを……幸せに、なることを……望んでも、いいの……?
 ………あなたとの、未来を………望んでも、いいの………?」

「あたりめーだろ……?
 だからこそ………オレはあの時、今の人生、迷わずに受け入れられたんだぜ………?
 あの時もう、オメーの事を……どうしようもなく、好きに、なっちまってたから……」




瞳を潤ませ、微かに身体を震わせ、頬を染めた哀の髪を、コナンがそっとかき上げる。








「灰原。………いや――――――哀?」

「!」

「………哀。………ずっと………オレの側にいろよ………。
 新しい人生と、未来を………一緒に、歩いていってくれよ………」




ぽろぽろと涙を零しながら、哀は微笑み、小さく頷いた。


















おめでとうの歓声と、花火の音を向こうに聞きながら




華やかな光に照らされた二人の唇が、そっと重なる。












未来へ向けてのカウントダウンが終わり










二人の時間は、今、ようやく新たな始まりを告げた。










     END






   《 あとがき 》

高校生コ哀の、年越し話です。

実はこの作品、昨年のお正月フリーにしようと書き始めたものでした。
が、並行して書いていた「遙か」のほうが、先に草稿が上がってしまったので
「両立はムリ」とあっさり諦め、それからずっと封印していたのです(笑)
今回、リベンジを諦めかけていたのですが、何とか形になりました。ホッ。

コナンと哀になった二人は、はからずも人生のやり直しをしている訳ですよね。
でも、二人の記憶には、元の自分だった時の記憶が当然残っている訳で。
容姿は同じでも、取りまく環境も、人たちも、微妙に(哀の場合は大きく)違う訳で。
何かの折には、以前の記憶とリンクしたり、比べたり、という事があっても
不思議ではない…というか、むしろそれが当たり前だと思います。
だから、本当の意味で、『コナン』の、『哀』の人生が始まるのは、
元の年齢を追い越した自分たちが紡ぐ、新しい記憶が始まる時なのではないか、と。
そんな二人の、新しい人生の始まりを、年越しのカウントダウンと重ねてみました。

とりあえず。
コナン君、10年も告りそこねてたんですかというツッコミはナシの方向で(笑)
『志保』としての辛い記憶が終わる年齢を待っていた、ということにしてあげて下さい(^^;)


SSGI - 管理人 Tommy6より

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名探偵コナン
ジャンル:恋愛,日常,シリアス,イベント
カップリング:コナン-哀,新一-志保
キャラクター:江戸川コナン,工藤新一,灰原哀,宮野志保,毛利蘭,鈴木園子
管理人 瑠璃蝶々
取扱作品 名探偵コナン,遙かなる時空の中で,サクラ大戦
コメント -Tommy6より-
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