少し落ち着いた感じの水色をした 新しい 細身の傘 この姿になって 博士のもとに転がり込んでからすぐ 遠慮する私に構わず 笑顔で揃えてくれた日用品の中に 一本の傘があった もう何年もの間 大切に 大切に使っていたのだけれど…
週末の外出先で 風に煽られた傘の露先が 私の傘に突き刺さり 古くなって生地も傷んでいた所為か 穴があいてしまった 小さな目立たない穴だったし そのままでも特に支障はなかったのだけれど…
落ち着いた色あいが お前に似合うだろうと思ったのも 勿論なんだけど これを選んだのには 実はもう一つ もっと大きな理由があるんだよな ぐるりと見渡した売り場で この傘に目を引かれ 手に取り開いてみた時 まるで 梅雨の晴れ間の 雨の名残を残した空のように思えて 涙を零した後でふわりと笑った時の お前みたいだって ふと思ったからなんだ けど そんな事を正直に言ったら 実は意外と照れ屋なお前は 当分これを使ってくれねーかもしれねえから ――――――今はまだ オレだけの秘密にしておこう
この傘はあなたが選んでくれたから それだけで 本当にとても嬉しかったのだけれど 突然起こったアクシデントの所為で あなたに気を遣わせてしまったのは事実だから 『ありがとう』と喜んで 素直に受け取ってしまってもいいのだろうかと 少し躊躇った それでも―――結局受け取ってしまったのには あの時の あなたの言葉以外に 実はもう一つ理由があるの 差し出された この 落ち着いた空色をした傘を見た時 まるで 穏やかに晴れた空がよく似合う あなたのようだと思って 押し潰されそうにどんよりとした空 冷たく降りしきる雨の中に一人でいても 梅雨の晴れ間の 穏やかな色をした空の下で あなたと一緒にいるような そんな気持ちになれるかしらって ふと思ったから でも これは ―――――― 今はまだ 私だけの秘密